東京地方裁判所 昭和52年(ワ)58号 判決
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【説明】
本訴請求原因の骨子は、次のとおりである。
「1 原告は、ビルの建設及び分譲を目的とする株式会社であり、被告は、大規模ビル建築等の工事請負を主たる業とする株式会社である。
2 原告と被告は、原告を注文者、被告を請負人として、昭和四六年三月一三日、本件土地上に、請負代金一億九三〇〇万円で鉄骨鉄筋コンクリート造地上四階塔屋二階地下二階(階数は南側道路地盤面を基準とする)床面積合計二七三四平方メートルの建物を建築する工事請負契約を締結した。
3 原告は、被告に対し、昭和四六年三月一三日、本件請負契約に基づき、代金の一部である契約時前渡金として、二〇〇〇万円を交付した。
4 本件請負契約は、以下の理由で無効である。
契約図面における前記建物の高さは、建築基準法により許されている限度を8.9メートルも超過している。すなわち、本件土地は崖地であり、同土地の最低部分に接する北側道路地盤面と崖上の南側道路地盤面との高低差は17.10メートルあり、契約図面のとおりに四階の地上建物を建築すると、建物の高さは、28.90メートルとなる。前記建物の建築に適用になる当時の建築基準法五七条による高度制限は二〇メートルであつたから、右制限を8.9メートル超過することになる。同条の基準に適合させるためには、地上建物を一階建とせざるを得ないことになる。前記建物を契約図面どおり建築することは不可能であり、右基準内で建築しうる建物は、社会通念上、前記建物と同一のものとは言えないものとなる。すなわち、本件請負契約は、原始的に不能な事項を目的とするものであるから、無効である。
よつて、原告は、被告に対し、不当利得返還請求権に基づき、右二〇〇〇万円及び利息の支払を求める。」
【判旨】
一請求原因1の事実は、当事者間に争いがない。
二請求原因2の事実は、建築すべき建物の階数を除き、当事者間に争いがない。そして、<証拠>によれば、建物の階数は、塔屋付地上五階、地下三階であつたことが認められる。
三請求原因3の事実は、当事者間に争いがない。
四請求原因4の事実のうち、本件土地が崖地であり、同土地の最低部分に接する北側道路地盤面と崖上の南側道路地盤面との高低差が17.10メートルあること、契約図面のとおりに建物を建築すると建物の高さが28.90メートルになり、前記建物の建築に適用になる当時の建築基準法五七条による高度制限は二〇メートルであつたから、右制限を8.9メートル超過することになることは、いずれも当事者間に争いがない。
右の事実によれば、本件請負契約において建築すべきものとして当事者が合意した建物と建築基準法上適法とされる建物との間には、著るしい差があり、後者の建物を建築することによつて、前者の建物を建築すべき右契約上の債務を履行したものということはできない。
前者の建物が右二に判示のとおり大規模な鉄骨鉄筋コンクリート造の建物であり、かつ、建築基準法違反の程度が右判示のようにきわめて大きいこと及び被告が請求原因1記載のような株式会社であることを併せ考えれば、前者の建物を建築すべき本件請負契約上の債務が現実に履行されることは社会通念上不能であると言わなければならない。
したがつて、本件請負契約は、原始的に不能な事項を目的とするものであるから、無効と解すべきである。
(伊藤滋夫)